ゆかたん

拝啓 おじいちゃん

 まずはじめに、子どもの頃ぶりに書いた手紙がこのような機会になってしまったことをすこし悔いています。

そして、この手紙の内容は、本来ならば生前のあなたに直接伝えるべきことでしたが、それを怠ったのはわたしの怠惰に依るものです。ごめんなさい。

 

 さて、わたしが大学で農学の道を選んだのはあなたの影響によるものだと思っています。
子どもの頃はよく畑に遊びに行って、野菜の収穫などをさせてもらいましたね。

先の見えない畑も、夏の蒸し蒸ししたハウスも、自分の手でとった野菜のみずみずしさも鮮やかに覚えています。

大学は、”まあ農学を専攻してみるのも悪くないか〜”くらいの軽い気持ちで選びましたが、想像以上に奥の深い世界でした。

社会人になって、仕事ではたくさんの農家さんと出会ってきましたが、きっとあなたは愚直に、そして真摯に仕事に向き合っていたのだろうと容易に想像がつきます。

これからも、農業の世界に片足の親指1本でも触れていられるよう努めます。

 

 話は変わりますが、今回あなたが旅立ったことは個人的には前向きに捉えていて、すこしホッとしました。

最後に話したのは何年前でしょうか。
薄情な孫で御免なさい。

でも、やっと解放されたと思って、安心したのです。

 

 わたしが歳を重ねるにつれ、口数の少なかったあなたと子どもの頃の自分がどんな会話をして、どんな風に遊んで、どんなことをしてもらっていたのか、記憶がどんどん風化しています。

それは悲しいことだけど、わたしが今回あなたを弔いたいと思えたのは、思い出が曖昧になった今でも、わたしがあなたに愛されていたと自信を持って言えるからです。

あなたの遺影は、生後5ヶ月のわたしを抱いていた時の写真になりました。

その笑顔が、祖父と孫であるわたしたちの関係を紛れもなく証明しているでしょう。
これからもその笑顔で、見守っていてください。

 

 最後になりますが、わたしはきっとまたあなたとどこかで会えると信じています。
そのときは、新たな関係を築き、あの時のように笑い合いたいものです。

 おじいちゃん、さようなら。
 そして、「はじめまして」と言えるそのときまで。

あなたの初孫 ゆかより

祖父への弔辞を残しておきます。