読書

農業関係者に向けたオススメ本まとめ【書評】

北海道の農業関係者向けに発行されている農業雑誌「ニューカントリー」(http://www.dairyman.co.jp/new_country)でわたくし、ライターをしております。

その中にある「私のオススメ図書」というコーナーで2年間、書評を寄稿していました。
半年に1回くらい。

農業従事者の経営や人生に役に立つようなものをテーマに、今まで読んだ本の中から選書しています。

 

月に1冊も本を読まない人が人口の半数を占めると言われている今の社会において、わたしの書評から本を手に取って下さった読者がどれくらいいるのか。

そもそも、誰かの役に立っているのかすらもわからないけど。

農業関係者をはじめとした多くのひとたちに、生活のスパイスにしてもらえたら。
と思って、今まで記事で紹介した4冊をこちらにまとめておきます。

雑誌に掲載した記事全文は載せられませんが、内容を短くまとめました。

 

わたしが選んだ本は知識本ではなく、人生に影響を与えてくれるような本が中心です。

読みやすい文体か、手に取りやすいボリュームかという点も考えて選んでいます。

誰かにとって、いい出合いを運んでくれるきっかけになりますように。

 

人生に役立ててほしいオススメ図書4冊

奇跡のリンゴ

”何かに狂え”と 心に火をともす本

自分が自分の人生の主役でありつづけるような人生を送りたい。
誰しもがそう思っているはずだ。

何者かになりたい。何かを成し遂げたい。そう夢見るひとも少なくないだろう。

ただ、そう思ってはいても、自分の中にある火を灯しつづけることはむずかしく、なんと困難なことであるか。

火は付いては消え、付いては消え。日々は過ぎ去っていく。
そんな日常をくり返しているわたしたちにとって、心の着火剤になるような1冊として本書をすすめたい。

 

農業の世界では有名な青森県の農家、木村秋則さん。

不可能と言われるリンゴの自然栽培を成功させたひとで、その挑戦に至ったきっかけから成功までの道のりがまとめられている。

この本は自然農法をすすめているわけでもなければ、慣行農法も否定していない。

ただ純粋に、ひとりの人間が狂ったようにひとつの挑戦に挑んだ。
それがあまりに狂人的で鮮烈だった。それだけの話である。

 

何かを成し遂げるためにはここまで狂わないといけないよな、と世界の厳しさを痛感すると同時に、自分はいつも大事なところで逃げていたんじゃないかと気付かされたこの一冊。

彼ほどの狂気を手にできなくとも、何かに没頭することで誰しもが自分の人生を変えられるとわたしは信じている。

ニューカントリー2020年5月号より←該当号のページに飛びます

 

なんで僕に聞くんだろう。

背中を押してくれる 言葉のお守りの数々

毎日頭の中は心配ごとや悩みごとで埋め尽くされ、ストレージは常に満杯だ。

近頃の悲しいニュースを目にする度に、社会的地位や収入、職業に関係なくひとは自分の命を天秤にかけてしまうほど思い悩んでしまうものらしい。

かといって、本当に思い詰めている悩みごとなんて、親友にも家族にも言えなくて。
悩みをひとりで抱えきれないで命を手放したひとの訃報を聞くたび、なんとも言えない気持ちになる。

 

意外と自分の悩みは匿名にして、全く知らないひとになら話せる場合も多い。

たくさんのひとから寄せられたあまりに重すぎる人生相談を、写真家の幡野広志さんが軽やかに答えていくのがこの本。

他人の悩みなのに、なぜか自分に言われている感覚に陥る。
読んでみると生きる上での視点が増えて、自分をちょっとだけ肯定できるようになるはず。

明日を少しだけ軽やかに生きていける、そんな気がするのだ。

 

ムーミン谷の仲間たち

生きる上で大切なことは ムーミンが教えてくれる

自由とは何か。孤独とは。自分はどうあるべきで、何を望んでいるのか。
自分の心に枷が付いているときに読んでもらいたい。

ムーミン谷シリーズ唯一の短編集である本書。話に出てくる者たちはみな何かに囚われている。

不自由を嘆く者、常に不安に駆られる者、自分を持たない者・・・
それぞれが自分と向き合い、他者と関わることで自らを解き放つ。魔法は起こらない。

 

自分を持たない”はい虫”はスナフキンに憧れていたが、こう言われてしまう。
「あんまり誰かを崇拝したら、ほんとの自由はえられないんだぜ」。

家族に皮肉を聞かされつづけて透明になってしまった女の子ニンニは、ムーミンママの愛情で徐々に体を取り戻していくが、顔だけは戻らない。

痺れを切らしたミイに「たたかうってことをおぼえないうちは、あんたには自分の顔はもてません」と言われてしまう。

ハッとするようなセリフが多いが、それぞれの行く末は読んで確かめてもらいたい。

 

ムーミン谷の住人が持つ影はわたしたちにも通ずるものであり、共通して「自由」「孤独」「自己」が描かれている。

自由と孤独を愛すためには、他者のそれも尊重しなくてはならない。
自分を自分たらしめるものとは一体何なのか、問われているようだ。

作者が随所に散りばめた哲学と、子どものためにやさしい文体で書かれたストーリーの奥深さとのギャップに毎回唸らされる。

わたしが好きな話は「しずかなのが好きなヘムレンさん」。

静寂を楽しむ遊園地をつくった彼とそれを楽しむ子どもたちの情景は、心が震えるほど美しかった。

 

格差と分断の社会地図

未来の社会のために できることを考えよう

社会人としての時間が長くなると、嫌でもこの社会の歪みに気づかされる。

収入格差、男女格差、教育格差、地域格差・・・挙げればキリがない。
そして、疫病がこれらの格差を「分断」へと押し進めている。

同じ社会に住んでいるのに、全く別世界で生きる住人となるのだ。

 

格差によって虐げられたひとはよく「自己責任でしょ!」と片付けられることがあるが、果たしてそれは正しいのだろうか。
めんどくさいことに目を背けただけなのではないか。

無知は衝突を生み、正義と言う名の暴力につながる。何も生まない。

ただ、「社会がよくなってほしい」とは誰しもが思っているはずだ。
まずは社会問題を知ることから始めたい。知ることは社会を良くする一歩になると信じている。

その入り口としてこの本を紹介する。

 

以下は本書で扱っているテーマの一部なのだが、答えられるだろうか。

  • 国民の7人にひとりが貧困者。なぜ貧しい国になったのか。
  • 何世代にもわたって貧困の連鎖から抜け出せない理由とは。
  • コロナ禍で女性の自殺はなぜ増えたか。
  • 女性のホームレスが少ない理由。
  • 「夜の街」に住む人間はなぜ感染リスクを冒してまで営業を続けるのか。

などなど・・・この社会には想像もつかなかった世界があるのだと知れる。

社会はどこまでも複雑で、格差を解決するには気が遠くなるほどの道のりだろう。
だが、知ってしまった以上見てみぬふりはもうできない。

 

学生向けの本ではあるが、この本は大人こそ読みたい。
子どもたちに社会問題を丸投げせず、今の大人たちで解決できるように動くのが我々の責務だと思うから。

誰もが置いてけぼりにならないような社会がわたしにとっての理想の社会。

そのためには知識を拒まず、思考を放棄せず、沈黙を破る大人としての勇気を持ちたい。

 

雑誌の購入はこちらから

雑誌を購入していただくと、書評記事がまるっと読めます。
ニューカントリーHPかお電話でご注文くださいな。

とはいえ、わたしの過去の書評は別にいいので紹介した本を読んでもらえたら。

雑誌ではわたし以外に農家やJA職員、専門家が毎月リレーして書いているので、気が向いたら読んでみてください。

2年書いた書評ですが、これからシーズン3に突入します(まだ書くんかい)。

2022年5月号と11月号でお会いしましょう。
またこちらの記事でも更新します。んじゃ!